落下する夕方
江國香織の「落下する夕方」を読了した。
けっこう好きだったはずだけど、読み終わってみるとそこまで感慨深いものはなかった。なんでだろう。
おかえりなさい。子供が言うような言い方だった。私は胸が一杯になる。1ミリグラムの誤差もなく、言葉が正しい重量をもっていた。こんなに正しい重さの「おかえりなさい」をきいたのは、ひさしぶりのことだった。
一度でいいから、正しい重さの「おかえりなさい」を聞いてみたいと思う。
あとがきにこんな文章がある。
これは、すれちがう魂の物語です。すれちがう魂の、その一瞬の物語。
そうしてまた、これは格好わるい心の物語でもあります。格好わるい心というのはたとえば未練や執着や惰性、そういうものに満ちた愛情。
うんうん、と、頷いてしまう。格好わるいからこそ、心打つのかもしれない。登場人物がみんな、どこか格好わるい、不器用なところがあって、そこに親しみを感じる。