すべて真夜中の恋人たち

川上未映子の「すべて真夜中の恋人たち」を読了した。川上さんの作品は「乳と卵」を以前読んだ。

「乳と卵」より抵抗なく読めた。というか相変わらず文章はすらすらと読んでしまう感じ。今回はベースが標準語だったので、読み易かったのかもしれない。物語自体もこちらのほうがすき。
この物語には、目的やゴールや答えのようなものはたぶんない。少なくとも僕は読み取れなかった。綿矢りさの小説を読んでいるときも、同じように感じることがある。蹴りたい背中とか。でもそういう物語もけっこうすきなので、あまり気にならなかった。


「すべて真夜中の恋人たち」では、主人公のそのときどきの気持ちや感情で文体が変わる。「見る」が「みる」になったり、漢字とひらがなの割合が変わったりする。
例えば「私はひどく悲しくなった」と「わたしはひどくかなしくなった」では、印象が異なる。この文体の変化が面白いし、うまく物語に合っている。考えてやっているのか、自然とできることなのかわからないけど。


よしもとばななの初期の作品では、たまにですます調の文章がでてくる。キッチンでは数箇所出てくるし、文庫本の解説にもそのことが書いてある。江國香織の作品では、登場人物の成長とともに文体が変わる。「神様のボート」の草子が成長するとともに、文章がしっかりしてくる。


考えてみると、感情や状況で文体が変わるって、普通のことかもしれない。考えごとをしていても、気持ちいいときはひらがなが多そうだし、会議中なら漢字が多いだろうし、酔っ払っていればぐちゃぐちゃだろうし。
「すべて真夜中の恋人たち」を読んでいて、自分ではこんな文章は絶対に思いつかないとか、日本語ってこんなふうに使ってもいいのか、と思った。それだけで、じゅうぶんに楽しめた。


すべて真夜中の恋人たち
川上 未映子
講談社
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