IAシンキング Web制作者・担当者のためのIA思考術

IAシンキング

坂本貴史の「IAシンキング Web制作者・担当者のためのIA思考術」を読了した。
最初のほうだけ読んで、なんだか難しくて積ん読になっていた。多少斜め読みでもいいから、とりあえず読み終えようと思い直して読み終えた。読み進めるとだんだん面白くなってきて、どんどん引き込まれてしまった。知らないことが多く、とても勉強になった。
ページ数はそんなに多くないけど、内容が充実していて密度が濃い。僕には濃すぎるので、演習問題はあまり深く考えず、どんどん読むことにした。そのかわり他の部分でいろいろと考えることになった。
というわけで、書評というよりは、読みながら考えたことをつらつらと。僕はWeb制作者ではなく、開発者/エンジニアなので、そういった視点で読んでいた。

サイトの特性

本書で扱っているのは、基本的には静的サイトだと感じた。もちろんCMSECサイトに考慮した内容になっているけど、基本的にはリソースとURLが1対1で、副作用のないリソース(GETするもので、POSTしないもの)に関する内容だと思う。
だからディレクトリ構成の内容は出てくるけど、URI設計(URL設計)の内容はあまりでてこない。ここでのURI設計というは、こういうことを考えること。

こういったことも、IAを考える上では大切なことだと思う。

モバイルファーストとIA

スマートフォンスマートデバイス向けサイトを作る場合と、通常のサイトを作る場合では、IAの考え方は大きく異なると思う。モバイルファーストでサイトを作っていく場合には、どうやって考えていくのか気になった。モバイル向け、PC向けのIAを、両方考える必要があると思うので。
先日の長谷川恭久さんのセミナー(テクノロジー×クリエイティブ視点でみる、Webの仕事の行方 - techlog)では、上記のような話が出てきていた。
セミナーではKingshill Carsというサイトが紹介された。通常のサイズでは電話番号などがページ上部に表示されている。

でも横幅を狭くすると、電話番号が下のほうに表示される。

こういうの大事だろうけど、考えるの大変そう…。ちゃんと自分で考えてみるといいのだろうけど、そこまで時間は掛けられないので、とりあえず気にしない。そのうち指針やプラクティスができてくることを期待する。

バックエンドからIAを考える

Web製作者の方は、おそらくWebサイトやWebアプリケーションをフロントエンド、ブラウザから見えるほうから考えていると思う。
僕はWebサイトやWebアプリケーションを、主にバックエンドから考える。データベースのテーブル構造やリレーション、機能やクラス設計を考える。そこの表示されている情報の実体はどこにあるのか、どういったプロセスを経て表示されるのか、といったことを考える。だからIAの本を読んでいて、もう少しバックエンド側についての言及はないのかな、と思っていたけど、以下の記事を読んだら腑に落ちた。

例えばこんな文章があった。

OOPがソフトウェア開発に、その延長で情報アーキテクチャにもたらした基盤は、人間視点でシステム全体を形にするモデルを作ろうという発想であり、ユースケースやペルソナといったツールはその方法の一つにすぎない。重要なのは、意味上の関係だけでなく、行動面での関係やインタラクティブな関係まで示せるモデリングツールもあること。情報アーキテクチャを、ソーシャル/モバイル/ユビキタスな領域まで広げようとすれば、こうしたモデリングツールの威力は大いに役立つはずだ。

「情報アーキテクチャの興亡と再起」についての覚え書き « IA Spectrum

IAと、オブジェクト指向のクラス設計や、UMLモデリングや、RDBMSの論理設計は関連するような気がしていけど、ここ以外でそういった文章を読んだことがなかった。
随分前にこのエントリを読んだときは全然理解できなかった。でも本を2冊読んで、いろいろな記事などを読んで、もう一度この記事を読んだら、ある程度理解できるようになっていた、気がする。たぶん。

まだまだこの分野のボキャブラリーが足りなくなくて、うまく読み取れないとこもあたくさんあるけど。このほかのエントリもとても参考になった。いろいろ知識が増えてきて、ドットが繋がりはじめた気がする。
# それにしてもアラン・ケイはすごいよなぁ。

Webサイト以外のIA

「IA100」も以前読んだけど、この「IAシンキング」も、なぜフォーカスしているのがWebサイトだけなんだろうと思った。本書は副題に「Web制作者・担当者のためのIA思考術」とあるので、Webサイトが前提となっていることがわかる。
例えばUIやUXはコンテキストによって何のUIについて語っているのか、どんなUXについて議論しているのか変わってくる。WebサイトのUXと、ゲームのUXは違うだろうし。
IAの場合も、WebサイトのIA、スマートフォン向けWebサイトのIA、ゲームのIA、アプリケーションのIA、etc...、では変わってくると思う。もちろん、ある程度の根本は共通するかもしれないけど。
IAの領域は広いと思うので、包括的な書籍がでてくるといいな、と思った。「Web制作者・担当者 *以外* のためのIA思考術」とか。本当はいろいろな分野の本を読めばいいんだろうけど、そこまでやるのもなかなか大変で…。

IAの本質は「見つけやすさ・探しやすさ」

本書をある程度読み進めると、そもそもIA(情報アーキテクチャのほう/アーキテクトではなく)がなんなのかわからなくなった。いろいろ読みなおしたりしたけど、序盤ではIA自体の定義や範囲はあまり書かれていなかった気がする(読み落としたかもしれないけど)。でも読み進めると以下のような文章があった。

また、情報アーキテクチャの目的はあくまで「見つけやすさ・探しやすさ」の追求のため、内容そのものの「理解しやすさ」を改善するのはタスクの範囲外です。そこまで求められるようであれば、情報デザインのスキルが必要です。

IAシンキング Web制作者・担当者のためのIA思考術 - P.124

きっと広義のIAとか、狭義のIAとか、形而上学的IAとか、メタファーとしてのIAとか、いろいろあると思うのだけど、この文章を読むまで本書におけるIAという言葉の指し示す実体がうまく捉えられなかった。でもこれを読んでからはすんなり理解できたと思う。

まとめ

読み終えるのは大変だったけど、その分勉強になった。これだけ詳しく解説された本は、なかなか少ないと思う。自分でWebサイトの構成を考えたりすることが少ないので、考え方や設計のプロセスの一端を知ることができて有意義だった。演習の部分はすっ飛ばしたけど、まずは読み終えたかったので。次はちゃんと考えてみたい。
SIの現場にインフォメーションアーキテクトはいない。でもIAについて考えてみるのは楽しそう。たぶんWeb制作の現場にもDBAはいないよね。
プログラミングは実際にやってみないとわからないことが多い。IAもそうだと思う。何か作るときにIAを意識するだけでも、けっこう変わるんじゃないかと思う。IAとセマンティクスを意識したHTML5マークアップは相性が良さそうだし、両方あわせて勉強できればいいなと。