スロウハイツの神様
辻村深月の「スロウハイツの神様」を読了した。いい作品だった。面白かった。
辻村深月はデビュー作の「冷たい校舎の時は止まる」を読んだきりだった。読んだら面白いだろうと思っていたし、友達も勧めてくれていた。でも読み始めたらはまっちゃいそうで、読んでいなかった。
作中で、登場人物であるチヨダ・コーキという作家の本に対する、こんな文章があった。
「出てくる考え方とか、言葉の一つ一つとか。ガキだったからさ、俺のことどうしてこんなに知ってるんだろうって、勝手に代弁者か、救世主みたいに思ったよ。不思議だよな。あんなの、現実には起こるわけない完全なファンタジー小説なのに」
「スロウハイツの神様」を読むと、こんなふうに感じるひとはけっこういるんじゃないかな、と思った。ついつい感情移入してしまう。
もちろん僕はついつい感情移入してしまった。どこかまでは言わないけど、ところどころ、でもそれなりに多く。
この文章ほどではないかもしれないけど、登場人物が多くてそれぞれの性格は全く異なるから、いろいろな人に当てはまるポイントがあると思う。それがこの作品の面白さの一つなんだろうな、と思った。そしてこれだけ書けるってすごい。
紙の本を読んでいて、「下巻の半分を過ぎて、更に面白くなりそう」や「残り100ページ、ラストに向けてどうなるんだろう?」って感覚がけっこう好き。電子書籍だと、そういうところが分かり辛い。どっかで誰かが書いていた気がするけど、記憶に埋もれて思い出せない。
「スロウハイツの神様」は物語の構成がすごくいい。文体はオーソドックスだけど、物語の完成度が高い。いいミステリを書ける人は、頭がいい。こういうミステリ作家の書く、ミステリ以外の作品がけっこう好き。例えば恩田陸の「夜のピクニック」とか。
文章だけでも充分に面白くて、さらにラストに向けて加速して収束して、すべてがぴたっと収まる。
そして、なによりも救いがあってよかった。