かわいそうだね?

綿矢りさの「かわいそうだね?」を読了した。「かわいそうだね?」と「亜美ちゃんは美人」の2編が収録されている。
綿矢りさの書き出しはすごいから、この本は中編が2つという感じだけど、書き出しが2つも読めるので嬉しい。


「かわいそうだね?」の書き出しはこんな感じ。

くらりと揺れて貧血かと案じ、家の本棚にしがみついたら、本棚も、壁にかけたカレンダーも揺れていて、ようやく地震だと気づくのだった。

かわいそうだね?

「案じ」というところや、読点の打ち方に特徴がある。これくらいの長さですっと読めるような一文を書くのは、普通は難しい。だからこそ、そこで作家の力量や特徴がちょっとだけ見える。長い一文を、どんなふうに表現するのか。


「亜美ちゃんは美人」の書き出しはこんな感じ。

さかきちゃんは美人。でも亜美ちゃんはもっと美人。グリム童話「白雪姫」で継母の女王様は「女王様は美しい。でも白雪姫はもっと美しい」と魔法の鏡から衝撃の告白を受けて、鏡をぶち割った。しかし魔法の鏡に訊くまでもない。さかきちゃんは美人。でも亜美ちゃんはもっと美人。
明白な事実。

亜美ちゃんは美人

ここでは「さかきちゃんは美人。でも亜美ちゃんはもっと美人。」ということしか書いていない。普通に繰り返していると、ちょっとくどいかもしれないけど、最後の「明白な事実。」という一文で、びしっと締まっている。


綿矢りさは書き出しを自然と書いているわけではなく、何度も書きなおしている。そのあたりのことが、ちょっとまえの文藝のインタビューに載っていた。バックナンバーが図書館で借りれるみたいなので、今度読んでみようと思う。まえは立ち読みしただけなので。
もちろん書き出し以外も面白く読めた。
綿矢りさの描く人物は、どこかちょっときもちわるい、なまなましい。でも憎むことはできない感じ。あと文章がリズミカルで読んでいて楽しい。また長編も読みたい。


かわいそうだね?
かわいそうだね?
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綿矢 りさ
文藝春秋
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