きつねのはなし

森見登美彦(id:Tomio)の「きつねのはなし」を読了した。
このあいだ読んだ四畳半神話大系 よりもすらすらと読めた。比較的普通の文体でも面白さはかわらない。ぼんやりと繋がっている、不思議な4話が収録されている。京都奇譚集といった感じがする。


この作品にはナツメさんという女性がでてくる。その最初のほうで、以下のような表現がある。

涼しげで優しい眼をしていて、背が私よりも高かった。綺麗な人だなと思った。
<中略>
「代金を渡したとき、あなたの手がとても冷たかったのを覚えています」
彼女はいつもそんな風に、少し強張ったような喋り方をした。
「冬でしたからね」と私は言った。
「あれが初めてお弁当を宅配してもらった日だったのですが、それきり宅配を頼むのはやめてしまいました。あの手がとても冷たくて、可哀相でしたから」
そう言って彼女はすまなそうに笑った。

森見さんの描く人々はとても特徴的で印象的だ。それは外見などを記述するのではなく、その人たちにまつわるエピソードで人物を描画しているからではないかと思った。
引用した部分では、「涼しげで…」のくだりではあまりぱっとしないが、そのあとの文章でナツメさんの人となりがわかる気がする。
ここではよい印象を抱いたが、もちろん逆の効果をもたらすこともできる。直接的な表現ではない分、より奇妙な話になっていると思った。
作品ごとに文体がらっと変わるのだが、芯の部分の面白さは変わらないからすごいと思う。

きつねのはなし (新潮文庫)
森見 登美彦
新潮社
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