チーム・バチスタの栄光
一気読みしてしまった。とても上質なミステリー。
専門領域の話なのに、何も知らなくても話に夢中になってしまう。その専門性を理解できなくても、物語が滞らない。こういう文章がすきだ。文章力のある一面とは、こういうことなんだと思う。
すごく単純にすると、料理についての記載で、読んでいるとすごくお腹がすいてしまうような文章だ。僕の持つ専門性はJavaやLinux、或いはビリヤードといったところ。これを万人に、100万人に理解できる形で表現することはできない。Javaについて何も知らない人に対し、Javaでできることをわかりやすく語る。或いはJavaについて語るけど、Javaの専門的な知識は必要としないような文章。
そんな文章力があれば、是非とも概要設計書に取り入れたい。
キャラクターの存在感については、いろいろなところで語られているけどやっぱり書く。僕にとって存在感のあるキャラクターとは、たくさんの登場人物がいても、それがだれなのかはっきりとわかること。これに尽きる。
本作品にでてくる主なキャラクターは以下の通り。
- 田口公平
- 白鳥圭輔
- 桐生恭一
- 高階権太
- 垣谷雄次
- 酒井利樹
- 氷室貢一郎
- 羽場貴之
- 大友直美
- 鳴海涼
- 黒崎誠一郎
- 兵藤勉
- 曳地均
- 藤原真琴
14人もいるが台詞を1行読めば、すぐに誰の発言がわかる。これって、なかなかできないことだと思う。
ここから先は書評ではなく感想。多少ネタばれ注意。ざっくりとしたあらすじはWikipediaから。
しかし成功率100%だったチーム・バチスタが3例立て続けに謎の術中死に遭遇する。医療ミスか、単なる偶然か、それとも故意によるものか。
本作品はこの術中死を調査していく物語だ。
僕はSEなので、その観点で考えてみたい。ソフトウェアにはバグがある。どんなに注意してもある。人は不完全なもので、それ故にソフトウェアもどこまでいっても不完全だ。
僕の関わるシステムは、ミッションクリティカルなものはある。でも人命に関わるものは少ない。直接的に人命に関わるシステムを担当したことはない。例えば飛行機の管制システムだったり、NASAのスペースシャトルだったり。医療に携わる人々もやっぱり不完全である。そこでは毎日ミスが発生していると思う。それが重大なミスにならないように、善処されているのだと思う。
もし人命に関わるシステムでバグがあったら、当たり前だけどそれは人命に関わる問題だ。なにか起きる前にバグは修正されるかもしれない、なにか起きた後に修正されるかもしれない。もしバグがバグではなかったとしたら、誰かが意図して組み込んだものだったら、気付けるだろうか。
つまりバックドアやルートキットのようなものは、悪意をもって組み込まれている。これらはなるべく気付かれないように作られている。しかもシステムの開発者がこれらの行為を行っていたとどうだろう。本作品ではその調査の過程が描かれている。
最後に本作品のタイトルについて。
受賞時の「チーム・バチスタの崩壊」だったのが「チーム・バチスタの栄光」として刊行されている。これは読んでから知ったのだが、とてもよいセンスだと思う。「チーム・バチスタの奇跡」でもなく、「チーム・バチスタの栄光」。
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